とりとめのないはなし。

彼女が映画を観ている時の横顔が好きだったけれど、泣いているところは見たことがなかった。

 

彼女と会ったのは通っていた喫茶店が定休日で、手持ちぶたさになった僕が入ったファミレスだった。

彼女は入店した僕に席を案内し、水の入ったコップを机に置いて「ご注文お決まりになりましたらお手元のボタンでお呼びください」と滑舌良く発音した。僕の目をしっかり見て。

 

僕は一目惚れを人生で初めてした。

僕は彼女と話したいと思って、

持っていたリュックの小さなチャックを開け、メモ帳にボールペンで「連絡先を教えてください」と書いてしまった。

 

注文なんか決まっていないのにボタンを押してしまった僕は激しく後悔する。

注文を聞きに来た店員がパートのおばさんだったからだ。

僕はとてつもない虚無感に襲われてドリンクバーを一つとだけ言った。

あのおばさんには悪いことをしたなと思う。

 

僕はどうにかして彼女と話したいと思って会計の対応に彼女が来てくれるのではないか、と思い、急いでドリンクを注ぎに行き、席に戻って勢いよく飲み干して会計に向かった。

 

案の定会計の対応はあのおばさんだった。

 

 

彼女と付き合うまでの過程はこれくらいにしよう。

えっ?全然足りないって?

まぁ、いいじゃないか。

彼女の美しさは僕にしか分からないさ。

 

映画を観終わった僕らはプラネタリウムを見に行った。

僕は星に詳しくなんかないけれど、彼女が好きだと言っていたから一緒に行った。

 

僕は彼女からあらゆるモチベーションを貰っていた。

外に出るとか、本を読むとか、音楽を聴くとか、写真を撮るとか、映画を見るとか、プラネタリウムを見るとかだよ。

 

彼女と過ごしていた日々は学びの連続だった。

 

彼女と初めて会った日に喫茶店が定休日だったことは運命のいたずらとしか思えない。

 

えっ?彼女とどうやって付き合ったのかを教えろって?

 

僕がひたすらあのファミレスに通い続けただけだよ。

それこそあのおばさんと僕がすっかり友達になってしまうぐらいにね。

 

僕が一人では得られなかった全てを彼女が僕に与えてくれたんだ。