彼女は絵画を見て、「何が面白いの?」と言うような人だった。 何が面白いか分からないから面白いんだと、誰かが言っていた。 僕は教科書のページの隅にパラパラ漫画を描いていた級友に、一枚のイラストを依頼した。 彼は快く引き受けてくれたが、僕は違和感…
桜の花びらをじっと見つめながら何かを話す彼女の映像を頭の中で見ていた。 「春になんでそんなふうに思うの?」 「君が思う春を僕は知らないけれど、僕はどんな季節であっても僕のままだと思うよ。」 彼女は桜の花びらから目を逸らさない。 「春ってねぇ、…
「やれやれ。」 どこかの誰かがそう呟いて、 賛同する人もいて、反応しない人もいる。 登場人物たちに対して感謝を述べる人もいれば、自分が作ったものに興味を示さない人もいる。 愛された人間にしか愛される人間像が輪郭と中身を伴ったまま生み出せないの…
時間軸を辿ってみれば今の僕がここにいることにほんの少しの違和感がある。 ほんの少しというのは、料理の調理工程にある 「塩を少々。」ぐらいのものなんだけれど。 彼女が僕の前に現れた、いや、僕らが出逢った時に僕らはお互いを認識するべき数々の出来事…
春が始まる頃に来年の冬を見るために今年を生き抜こうと誓うことが彼女から教わった最後の言葉だ。 僕が彼女のおかげで生きてこられたのは言葉があったから。 伝えあって、心を探り合いながら日々を積み重ねてきたからだ。 秋の終わりに紅葉の葉で覆い尽くさ…
深く思い出を刻み込んだ彼は前を向いて歩いていった。 彼が一歩ずつ、あるいは半歩ずつ、あるいは4分の一歩ずつ日々を過ごしてきたなかで、堆積していった感情はもはや僕には理解できないものだ。 僕が自転車に乗ってあの公園に行くと、彼は遅いぞ、と言う。…
こんなに悲しいことはもうないと思っていた。 僕が生まれる前からその漫画は家の本棚にあった。 人生で初めて読んだ漫画がそれだった。 wowakaさんが亡くなったときも散々泣いた。 全然言葉なんか役に立たないんだ。本当に。 とても大きな感情に迫られたらど…
一体何を書けるのか全く分からない。
どれだけの悲しみが君を覆っているんだろう。 君にかけられた言葉の数々が堆積して出来た 巨大な壁を目の前にしているよ。 果てが見えないな。まるで世界を横断しているほど巨大だ。 僕は言葉の捉え方を間違え続けてきたんだろうな。 だからもう、どんな言葉…
青い花が散っていって、彼はドアを開けて外に出た。 彼女は本を読むことをやめた。 僕は音楽を聴いている。 あのカーテンの色はパステルカラーで、本のカバーには押し花のデザイン。 誰もいなくなった部屋でパソコンのキーボードを打っていた。 彼女は「言葉…
音楽を小説を生活の中心に置いておける時間を確保しておくことを目標にしておきながら、僕は文章を書くことができた。 誰かのために書ける文章には出会えない。 だが、その試みぐらいは許されていいだろう。 貴方のことを愛すよ。 僕は言葉で全てが語れると…
あの空には雲がかかっていて、僕の目の前には電柱が立っている。 僕は数分前に自転車に乗っていた。 漕ぎ続けた道はなんて事のないただの道だった。 僕は下り坂を降りて行く途中で電柱にぶつかった。 深夜の住宅街だ。 何が起きたか分からなかったので、僕は…
こういう時に何を言うべきか、僕は知らない。 だから考え続けます。 しばらく旅行に出ているように文を書いていました。 新幹線、飛行機、船に乗るような旅行です。 当たり前の行動っていう言葉が最も抽象的で あやふやなものです。 今のこの社会のようにで…
貴方と約束した時間ぴったりに僕は到着した。 時計台の真下にベージュのコートを着ている貴方がいた。 「ごめん、待った?」僕が言った。 「ううん、全然。」貴方はそう言う。 ところで、この話を書いている途中に烏が鳴いていた。 僕の部屋にある本棚からは…
僕が思っていたことを君も同じタイミングで話すから僕は言いたかったことをすっかり忘れてしまったんだ。 星が綺麗とか、風が強いとか、そんな様な話にどれだけの価値があったのか、今後の人生なんてものを吹き飛ばせるぐらいの価値だと思っていた。 君がド…
君が思っている以上に、君がこの世界に及ぼしている影響は凄まじいものだと、僕は本気で思っている。 つまりね、夜空に浮かぶ星々の美しさとか 日が昇る愛おしさなんて比較対象になり得ないんだ。 そのぐらい君の価値は本当に尊いものなんだ。 僕は真面目に…
柔らかい春風が街を包んでいて、一日中、 日向ぼっこをしていた。 彼が買ってきたフランスパンを蓋付きのパンバスケットに詰めて、街で一番大きな公園のベンチに私は座っている。 昨晩彼が夜遅くに帰って来て、私が眠っている間に書き置きとフランスパンがリ…
それほど広くもないスペースに音楽をばら撒いてリズムやメロディを探すような話が聞こえてきて、僕は心が踊り始める。 少ない文字で書き始めても、誰にも伝わらないことが僕を遠い距離に置いていくためには必要なことだった。 伝えようとすることによって伝…
二回目のエッセイです。 10月について思うことと、 前回に続いて人生について思うことを書こうと思います。 まず、10月ですね。 一年の中で大切な月ですね。 季節の変わり目というのは美しい瞬間や景色に遭遇出来るんですけど、個人的に体調が悪くなります。…
彼女が映画を観ている時の横顔が好きだったけれど、泣いているところは見たことがなかった。 彼女と会ったのは通っていた喫茶店が定休日で、手持ちぶたさになった僕が入ったファミレスだった。 彼女は入店した僕に席を案内し、水の入ったコップを机に置いて…
灯籠が空に浮かんでいる。 それを撮っている青年がいた。 青年は撮ってある写真を後日見せてくれた。 たまたま旅行で訪れて良かったと彼は言っていた。 「あんなに綺麗なもの、生まれて初めて見ました。」 彼が撮った写真の中には灯籠の写真だけでなく、真夜…
木の枝の隙間から月が顔を見せていて、 下を向いて歩いたあなたのことを照らしている。 そんな光がこの夜を全て照らしてくれればいいと願っている。 僕の好きな人は笑うと目尻に皺がよる人だった。えくぼが可愛らしくて、会話の第一声が「どうしたの?」から…
彼女に会えた時に言う言葉を考えながら一週間を過ごしてきた。 シュミレーションをしておかないと僕は何にも話せなくなってしまう。 何にも話せないと彼女に気を遣わせてしまうことになることを避けたいんだ。 僕があんまりにも何も言わないもんだから彼女も…
このブログにある下書きを見返してみると、一番古いもので2019年4月19日とある。 それ以前のものはあったような、なかったような、そんな感じ。 始めた頃は、ただ自分を救いたかっただけのような気がする。でも、当時は自覚してなかったんだと思う。 ただ、…
彼は「もう僕のことは放っておいて欲しい」と言っていた。 そうは言っても構っていたいのが私の本心だった。 だから、一日のほんの数時間だけ一緒に何かをしようと提案した。 何かっていうのは、本を読んだり、絵を描いたり、勉強したり、ゲームをしたり、と…
本棚にはぎっしり本が入っていた。 本棚と言っても高さは二段で、幅は二m弱だった。 今はもう無くなってしまったが、本自体は別の棚に収納されている。 中身を入れるための外観性に富んだ入れ物は、 その形を保ったまま思い出になっていった。 子どもの頃抱…
「ねぇ、本でも読まない?」と言ってくれた彼女が僕の人生の幸福そのものだった。 大袈裟だ。今思えば大袈裟だと思う。 当時の僕には大袈裟なんかじゃないけどね。 「うん、読んでみる。」 彼女が勧めた本は、今でも人気の作家の本だった。 内容はよく分から…
林の中を歩いていると、小さく盛り上がった土に花が一輪植えられていることに気づいた。 私は肩に下げたバッグに手を添えながら、その花の脇を通って歩いた。 林を抜けて左を見るととても高い壁がそびえ立っていた。右を見ると雑草が生えた獣道があった。 私…
僕は、意識が宙に浮きながら9月、10月、11月、12月を過ごしていた。 色々なイベント行事が学校内であったけれど、何一つ思い出にはならなかった。 僕は昼休みに図書館に通うようになった。 海外の作家はいないけれど、有名な日本人の作家の小説を読んだ。SF…
彼の体は、冷たくなっていた。 僕は何を言ったらいいか分からなかったし、 言葉が見つかることもなかった。 人の死に顔を初めて見た僕は、どんな顔をしていたんだろう? 夏の空は快晴のままでうるさいくらい蝉が鳴いていた。 想像できることに限界がある僕は…